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「愛を知る喜び〜親と子のこころ」③

「愛を知る喜び〜親と子のこころ」③

前田 利江 姉
心理カウンセラー(臨床心理士、公認心理師)

第3回「弱さがつなぐもの」

 『神はみこころにしたがって、からだの中にそれぞれの部分を備えてくださいました。・・・目が手に向かって「あなたはいらない」と言うことはできないし、頭が足に向かって「あなたがたはいらない」と言うこともできません。それどころか、からだの中でほかより弱く見える部分がかえってなくてはならないのです。』(コリント人への手紙第Ⅰ. 12:18〜22)わたしが“弱さ”というワードに心惹かれるようになったのは、この聖句から受けた感動によるところが大きいです。からだを共同体に例え、からだ(共同体)を構成するいろいろな器官(人)に何一ついらないものはなく、その中でも弱く力のない器官(人)が大切なのだと書かれています。他にも「私が弱いときにこそ、私は強い」「わたし(神)の力は弱さのうちに完全に現れる」など聖書には弱さの持つ肯定的な側面に言及している箇所がいくつかあります。普段から強くならなければと頑張っている中で、聖書の世界はこの世の価値観に縛られているわたしの心をほぐして解放してくれます。心理学でものの見方・考え方を変えるリフレーミングという方法がありますが、聖書の言葉によって世界を見るフレームを変えられた経験の一つです。

 最近、孫娘がハイハイを始めました。小さい頃は一つ一つの成長が本当にうれしいですね。子どもが初めて笑った日の喜びは、アルバムの写真とともに鮮やかによみがえります。けれども小学校に入学する頃になると、周りと比べてできないことが見えてきて心配になることもあるかと思います。学習面の遅れだけでなく、授業の準備や片付けがスムーズにできない、忘れ物が多いなど周りと同じように動けないことを指摘されたり、気になったりすることもあるかもしれません。特に、ある能力は高いのに別の能力が低いというように、能力に凸凹がある場合には、本人も周りも「どうして、こんなことができないのかな・・・できるはずでは?」と感じて悩むケースが多いです。そんなふうに感じた時やなかなか克服できない苦手なことがある場合には、スクールカウンセラーに相談してみて下さい。例えば、発達検査をすることによって、背景となっている認知面での弱点や反対にその子の強みを把握できる可能性があります。そして、本人の意欲を支えていくために得意な面を活かしていくことや本人にあったやり方などの支援方法を検討して、家庭と学校で共有していきます。検査結果を聞いた保護者の方は「そういうことだったのか」と納得されたり、「努力が足りないわけではないと分かって気が楽になった」と言われたりすることも多いです。

 自分は不器用だから人の役に立つようなことはできない、自分には存在価値がないと感じてしまうことはありませんか。人の役に立つためには、それなりの能力が必要と考えるのは普通のことかもしれません。では聖書に弱さが大切と書かれていることを、どう考えたらよいのでしょうか?その一つのヒントを与えてくれたのが、岡田美智男教授(豊橋技術科学大学、情報・知能工学系)が開発した弱いロボットです。例えば、ゴミ箱ロボットはヨタヨタと動きまわるゴミ箱ですが、自分でゴミを拾うほどの能力がありません。落ちているものを見つけると、それを周りの人に教えるような仕草をし、人が拾ってくれると会釈をします。岡田教授は、『〈弱いロボット〉は、苦手なことや不完全なところを隠さない。むしろその弱さを適度に開示することで、周りにいる人の「強みや優しさ」をうまく引き出す』(*1)と述べています。人は不完全なので助け合わなければならないというと当たり前のようですが、不完全につくられているから助け合うことができるとも言えるのでしょう。

*1 岡田美智男:株式会社リクルート. Blog. ゲストトーク.
https://www.recruit.co.jp/blog/guesttalk/20200325_429.html
弱いロボット. 医学書院.

 一方で弱さはユーモアにつながる面もありますね。お笑い芸人さんはぶちゃいくさが武器になります。また、開成高校野球部の下手さを武器にした戦いぶりを描いたノンフィクション『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(*2)も読みながら思わず吹き出してしまいます。開成高校と言えば全国屈指の進学校ですから、頭脳プレーで闘うのか?と思いきや、下手さを前面に押し出したユニークな戦法の謙虚さ、潔さが気持ちいいです。自分の弱点を認めるのは難しいことですが、そこから意外な戦い方が見えてくるかもしれません。

 心や身体に弱さを感じることは苦しいし辛いことだけれど、神様がわたしたちの弱さを愛してくださっていると思うと温かい気持ちが込み上げてきます。そして、子どもたち一人一人がお互いの持つ弱さを大切にしながら、人を信頼して助けたり助けられたりできたらというのが願いです。

「それは、からだの中に分裂がなく、各部分が互いのために、同じように配慮し合うためです」(コリント人への手紙第Ⅰ.12:25)

*2 高橋秀実:「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー. 新潮文庫.

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