「愛を知る喜び〜親と子のこころ」④
前田 利江 姉
心理カウンセラー(臨床心理士、公認心理師)
第4回「それぞれの十字架」
子育てをしていく中で、最近、子どもとの喧嘩が増えたなあと感じることはないでしょうか?そんな時は子どもがいつの間にか成長していて、こちらのやり方を変えないといけない時なのかなと思って接してきました。自分の手の中にあって親がコントロールしてきたものを、少しずつ子どもに手渡していくイメージです。小さな節目は何度かやってきましたが、その最たるものが思春期の到来と言えます。思春期だからとわかっているつもりでも、それはあまりにも大きな変化なのでリセットがなかなか難しいものです。子どものやることは、まだまだ穴だらけに見えてしまい、ついつい口出ししたくなります。
このリセットを難しくしているものの一つに「母子一体性」ということが関係していると思われます。「母親の心理療法」*1 の著者である橋本やよいは、「母子一体性」について次のように述べています。母親は、妊娠によって子どもを体内に宿し自分と一体化していきますが、この子どもとの一体感的なつながりは、子どもが成長して物理的に離れていっても、母親の心の中では解消されずに残っているということです。この「母子一体性」は、お母さん方とのカウンセリングの中でも、わたし自身の気持ちとしても感じることが多いものです。子どもは自分の血と肉を分けた存在であり、子どもの痛みは自分の痛みのように感じてしまうことがあります。子どもの気分の変動につられて一喜一憂することや、子どもの問題を自分の責任のように感じて、罪悪感を持ってしまうと話される方も少なくありません。その結果、実際に辛いのは子どものはずなのに、お母さん自身が辛くなってしまい、その憤りが子どもに向けられてしまうことさえあります。また一方では、子ども側にも「母子一体性」は残っているので、母親の不安が子どもに影響してしまうこともよく見受けられることです。親の期待に応えようとして頑張って苦しくなってしまう子どももいます。
思春期になると、残念ながら親が子どもに出来ることは限られてきます。勉強を見ることも難しいですし、子どもの友達関係に立ち入って助けることもできません。とても歯がゆいことですが、喉まで出かかった言葉を飲み込んでハラハラしながら見守り、あったかいご飯を用意して待っているのがせめてもの親心でしょうか。親の手助けが必要と思われる場面であっても、親の思いでしたことが子どものニーズにそぐわないこともあるので、子どものしてほしいことを聞く姿勢が大切になります。子どもの声に耳を傾けてみると、自分には考えも及ばなかった感じ方や考え方を聞くことができて新鮮な驚きを覚えることもあります。
イエス様は「自分を捨て、自分の十字架を負い、そしてわたしについて来なさい」(マタイ16:24)とおっしゃいました。稚拙な解釈で申し訳ないのですが、人の言動がゆるせないと感じた時「自分の十字架(罪の責任)を負うことが大切で、人の十字架(罪の責任)を背負う必要はないんだ」と思って、心が少し軽くなったことがあります。父なる神様はわたしたちの痛みを御自分の痛みと感じ、わたしたちの罪の責任を御子であるイエス様に負わされました。けれども、わたしには人の十字架を負う力もなく、多くの場合、相手を変えることは難しいです。その代わり「自分の十字架」から目を逸らさずに、自分をしっかりと振り返っていくことはわたしの責任なのでしょう。恩師からカウンセラーにとって必要なこととして、(共感性はもちろんのことですが)自己を見つめることの大切さを幾度も教えられたことを思い出します。人間関係(クライエントとセラピストの関係しかり)には、当然、自己の問題が関わってくるからです。同じように子どもの思春期には、親自身のやり残した思春期の問題が立ち現れてくるという指摘もあります。思春期の課題は子どもの自立であると同時に、親の子離れと自立という一面も持っています。
それぞれの十字架は神様から託された使命でもあると思うと、その重さにも誇らしさが感じられてきます。子どもは自分のことで親に心配をかけたくないと思うものですし、自分の人生の責任は自分で負うことに誇りをもつでしょう。元来「母子一体性」は、母親が子どもの気持ちに寄り添う助けにもなるものです。お母さん方が悩みながらも、最終的には子どもが考え自分で選んだ道を見守っていく姿に励まされます。心配は尽きないかもしれませんが、子どもたちが神様と一緒に歩いて行くなら、きっと大丈夫ですね。子どもたちの生活の中に、行く道に、神様がともにいてくださいますように祈ります。そして、親自身も自分の人生を生き生きと歩んで行けたらいいですね!そんな親の姿は子どもにもよい影響をもたらすはずです。
*1 橋本やよい:母親の心理療法—母と水子の物語. 日本評論社.
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