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「愛を知る喜び〜親と子のこころ」①

「愛を知る喜び〜親と子のこころ」①

前田 利江 姉
心理カウンセラー(臨床心理士、公認心理師)

第1回「生まれたばかりの小さな愛」

 初めての赤ちゃんを迎えられた新米パパ、ママ・・・自分たちが眠ったり、ゆっくりお茶を飲んだりする時間もなく、あっという間にすぎていく忙しい毎日を送られていることでしょう。経験したことのない子育ての大変さに新鮮な驚きを感じているかもしれません。一方では、思春期のお子さんの対応に日々頭を悩ませ、子どもの心が「目の前の岩」(聖歌590番「すくいぬしイェスと」)のように感じられてしまうお父さんやお母さんもいらっしゃるかもしれません。さらには、主がいなくなってガランとした子ども部屋をみつめながら、どうしようもない寂しさがこみ上げくるのを感じている方もおられるでしょうか。

 わたし自身の子育てを振り返ってみれば、何が正解なのかと悩むことも多く、いろいろな失敗もしてきたなあと思い出されます。けれども、その一方ではとても充実した日々だったとも感じています。それは子育てが愛を知ろうとする作業だから、愛を知ろうとすることは神様を知ろうとすることだから、大きな喜びがあるのですね。「私たちは愛しています。神がまず私たちを愛してくださったからです」(Iヨハネ4:19)神様は、わたしたち親に子育てというすばらしい愛の業に参加することをゆるされました。子育てを通して神様の愛の業を学び、また、聖書を通して子育てを学んでいくことができます。

 一方、スクールカウンセラーとして子どもの心のケアに携わり、心理学について学んでいると「これは、あの聖句のことを言っているみたい」「あの聖句にはこういう意味があったのかも」というように聖書の言葉に思いを馳せることが多々あります。エーリッヒ・フロム*1は、愛は能動的な活動であり、与えるということ自体がこのうえない喜びなのだと述べています。子育てはまさに与える行為であり、聖書にも「受けるよりも与えるほうが幸いである」(使徒20:35)とあるとおり、親であれば誰でも子育てを通して与える喜びを感じることができるのですから、こんなに感謝なことはありません。特に出産直後の母親の心理は、ウィニコット*2が原初的没頭と呼んでいるように、子どもの欲しているものに敏感に反応し、まさしく与えることに夢中になっている状態です。このように親から愛情を受けることで、子どもの心には自己肯定感が育まれていきます。

 けれども子どもが大きくなるにつれて、親の与えようとするものと子どもの欲するものにはだんだんずれが生じてきます。さらに思春期ともなれば、親が考えて与えようとするものを拒み、むしろそれとは逆のものを求めようとすることすらあります。勉強に無気力になっているのは、親が成績を気にしていることを敏感に感じとっていたりすることも・・・そうなれば、親の考えであれこれ世話を焼くのではなく、子どもがしてほしいことを聞くことや、与えることをぐっとこらえて見守るということも大切になってきます。(このあたりのことや自己肯定感については後の回で追々取り上げる予定です)

 やがて子どもが巣立っていくことは喜ばしいことでありながら、一方では本当にさみしいことでもあります。人によっては強い喪失感や虚無感を感じる空の巣症候群という状態に陥ることもあり、ひどい場合はうつ病を発症することさえあります。わたしの場合は、心にぽっかりと空いた穴を何で埋め合わせしようかとあれこれ思案していた折、このような執筆の機会をいただいたことは感謝なことでした。自身が取り組んできた子育てについてじっくり振り返ることができ、自分の中に育ったささやかな実りとも呼べるものを確認する作業となりました。子育てを終えたお父さん、お母さんには子どもの成長のみならず、自分の中に育ったものに思いをはせ、さらにそこから新しい一歩を始めていただけたらと願います。愛を知ることに終わりはなく、神様を知ろうとすることは永遠に続く喜びですから。

 どうぞ、子育て中のお父さん、お母さんの毎日が愛を知る豊かな時間となり、喜びが溢れますように。また、このエッセイが、神様を求めておられるすべての方とともに、神様の愛について考えるささやかな時間となりますように、お祈りしています。

「生まれたばかりの小さな愛」
今日は平和な一日だった そんな日はわずかかもしれないけれど その喜びをかみしめる 幼子の笑顔と小さな手の愛おしさを 忘れないようにと心に刻む 豊かな実りをのぞむ農夫のように 夜明けから夕暮れまでひたすら汗して働こう 雨の日にはお休みしながら 爽やかな風の日を楽しみながら 生まれたばかりの小さな愛が 自身のうちにも豊かな実りを結ぶときまで

*1 エーリッヒ・フロム:1900年生まれ、社会心理学者。曾祖父、祖父ともにユダヤ教のラビ。
*2 ウィニコット:1896年生まれ、児童精神科医。ホールディング、移行対象などの理論を展開。

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コメント一覧 (2件)

  • 第一回目拝読いたしました。様々な読者が想定されていますので、現役の皆様には興味深いものがある事でしょう、と思いました。私は、傍観者になるしかないのかな、と少し寂しい思いもしますが、読ませていただきます。読後に思い浮かんだことは、祖父や両親や兄弟姉妹に愛されたな、とこの年になって喜びを感謝している後期高齢者だな~~~、ということです。一方、愛することを体験できたであろう子育てを当事者意識がないままに過ごしてきたことを妻や子供に指摘されているので、反省したり後悔したりしている爺さんです。主題を拝見し、親はどのようにして愛を知り、子供はどのようにして愛を知るのだろうか、などと勝手な興味を覚えながら、期待して待っていました。読みやすい前田様の講義に導いていただいて、私も「愛を知る喜び」を追体験させて頂こうと思います。ありがとうございます。

  • 酒井源次様
    コメントいただきありがとうございます!
    ご家族に愛されている酒井様の暖かいお人柄が、コメントの文章に表されているなあと感じました。
    わたしも今年初孫が生まれ、おばあちゃんの仲間入りです。
    どうぞ、これからも祖父母世代の代表として、ご意見・ご感想をいただけると感謝です。

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