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「発達障害について」(2)


発達障害について②

オーダーメイドの障害

堀川 寛 三滝グリーンチャペル牧師
中央聖書神学校 学監

 そもそも発達障害とは何なのか。発達障害者支援法には、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの(2条1項)」、とある。最近は、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害」を「ASD(自閉症スペクトラム症)」と呼ぶことが多くなった。いずれにしても重要なのは、発達障害は「脳機能の障害」であることと、「その症状が通常低年齢において発現する」つまり生まれつきである、ということである。「発達」という言葉から、誕生後の養育の課程で-分かり易く言えば育て方が悪くて-発症すると誤解している人がいるが、そうではない(但し、被虐待児に発達障害のような症状が現れることもある)。

月刊アッセンブリーNEWS連動記事
2022年 7月号掲載記事と連動
ぜひそちらもご覧ください。

 発達障害とされている三つの障害について説明しよう。まずASDである。Aは”Autism”すなわち「自閉症」、Sは”Spectrum”すなわち「連続体」のことで、朝焼けの空のような無段階で変化している様を意味している。簡単に言えば、ASDとは自閉症的な障害のことである。ASDは、①社会性、②コミュニケーション、③想像力、に問題があることから、しばしば「三つ組みの障害」と呼ばれる。社会性の問題とは、言い換えれば「空気が読めない」ということで、想像力の問題と相まって、臨機応変な対応が苦手で、集団生活の中で「浮いた存在」になり易い。また、人の気持ちを理解することが苦手(興味を持てない場合も)で、不躾な発言をしてその場の雰囲気を壊したり、場合によっては相手を傷つけてしまう(もちろん意図的ではない)。日本は「空気を読まなければならない」ので、必然的にこのタイプの人にとっては「生き辛い」社会である。

 コミュケーションの問題とは、言葉情報は理解し、やりとりできるが、それ以外の、つまり言外に伝えられている情報を受けとることが難しい、ということである。「メラビアンの法則」によれば(どこまで信用するかは別としても)、コミュニケーションにおいて言語情報はわずか7%であり、残りは聴覚や視覚の情報だそうである。そうなると言語情報以外の情報を取り入れることの難しいASDの人たちは、相手が本当に伝えたいことを理解しづらいことになる。一方、相手の反応にあまり関心がないので、一方的に自分の興味のあることばかりを口にする傾向があり、聞き手を辟易させてしまう。自分は至って冷静なのに、なぜだか相手に腹を立てられて困った、という体験をASDの人はお持ちだろう。

 最後の、想像力の問題というのは、「こうしたらこうなるのではないか」、「今はこうだけど、今度はこうなるはずだ」というような見通しが立ちにくい、ということである。ASDの子どもは「こだわりが強い」とよく言われる。小学校の図工の時間に、チャイムが鳴っても絵を描くのがやめられず、先生に注意されてパニックになった、というような事例は枚挙に暇がない。こうなってしまうのは、もちろんもっと絵を描きたいという気持ちもあるだろうが、それよりも、「ここでやめてしまったら完成できなくなってしまう」という恐れが原因である。「また次の時間に続きを描けばよい」とか、「きっと先生が別に時間をくれるはずだ」というような見通しが立てられない(発想のバリエーションが少ない)のである。ASDの人たちは、入社試験などの面接が苦手だ。いくら練習やシミュレーションをしても、実際に何が起こるのか想像できないからである。私のクライアントの中にも、面接が恐くて就職活動ができないASDの人が何人もいた。ひきこもり状態にあるASDの人たちにアンケート調査を実施したところ、社会に出られない最大の理由は、コミュニケーションが苦手というのではなく、何が起こるか分からない、つまり想像できない、という結果が出た。社会性やコミュニケーションの問題も、この「想像力の欠如」ということと不可分なのかもしれない。

 

 AD/HDは、ペトロのところでも説明したが、その名前が示すとおり、注意欠陥(不注意)と多動性(落ち着きがない)、そして衝動性という三つの特徴を持っている。日本には、AD/HDの代表として愛され続けている女性がいる。サザエさんである。彼女は、「お魚くわえたドラ猫、追っかけて、裸足で駆けて」て行き、「買い物しようと町まで出かけた」ところで財布を忘れたことに気づく。AD/HDの人は、興味のあることや、目的を見つけると、周囲のことが目に入らなくなり、そのことに集中するところがある。実は、日本では、彼女のようなAD/HD系の女性が好まれる。ドラマや小説、マンガの主人公として取り上げられることもしばしばである。もちろん、「落ち着きがない」ことも特徴で、AD/HDの児童が二人いると学級が崩壊する、などと言われたものだ。成長するに従って、この傾向は弱まってくるが、部屋の中でじっとしているタイプの人は少ない。

 最後に学習障害(LD)についてであるが、全般的な知的発達に遅れはなく、聞く・話す・読む・書く・計算・推論などのうち、特定の能力の習得や使用に著しい困難がある状態のことを言う。文字(特に漢字)を覚えるのに人の何倍も時間がかかったり、文章を読むのに特定の行だけに集中することができなかったり、筆算をするとどうして一文字ずれて計算したり、というような事が起こる。できないことが受け入れてもらえず、怠けているとみなされて辛い思いをしている人は意外に多いようである。

 以上、発達障害に分類される三つの障害について説明したが、大切なのは、それらの症状は一人一人度合いや特性が異なっている、ということである。合併していることもある。なかなか「典型的」なタイプの人には出会わない。そのため、発達障害は「オーダーメイドの障害」と呼ばれる。文部科学省は、2012年に、発達障害の可能性のある児童生徒は6.5%いる、と発表した。その通りだとすると、ひとクラスに二人以上、発達障害の可能性のある児童生徒がいることになる。スクールカウンセラーの経験からも、この数字は決して誇張ではないと思う。

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