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「発達障害について」(3)


発達障害について③

天才の宝庫

堀川 寛 三滝グリーンチャペル牧師
中央聖書神学校 学監

 前回、発達障害の特徴について述べたが、主にネガティブな側面ばかりになってしまったことを反省している。初回のコラムでも少し触れたが、そもそも発達障害とはその人に与えられた個性であって、それを「障害」呼ばわりしているのは社会の方である。よく知られていることだが、アメリカでは発達障害やその傾向がある子どもたちは「ギフテッド(与えられた)」と呼ばれ、特別な教育が施される。アメリカは権利の国なので、その子の不得手さが原因で、そうでない子どもと教育的格差があってはならない、と法律で決められている。また、トム・ハンクス主演で話題になった映画「フォレスト・ガンプ 一期一会」で描かれている主役の男性は、明らかに発達障害(紹介文などには知的障害とあるが)であり、不器用だけれど何かに挑戦し続けた人たちによってアメリカは造られてきた、と訴えている。そもそも、中世、ヨーロッパから命がけで新天地を目指した人たちによって生まれた国なので、その子孫がADHD的な遺伝子を受け継いでいるとしても不思議はない。

出典:https://synca.jp/forrestgump/より

 では、発達障害のポジティブな側面とは何だろうか。話しの流れからADHDについて述べてみよう。ADHDの人たちは発想が豊かで、行動的である。前回、日本で一番愛されている女性であるサザエさんもADHDと述べたが、NHKの大河ドラマや朝ドラで取り上げられる女性にはADHD系の人が多い。記憶に新しいところでは、新島襄の妻である新島八重(広島出身の女優綾瀬はるかが演じた)。彼女は、当時としては珍しく、女性でありながら銃を担いで自ら戦場に赴き、明治になってからはいち早く洋装を取り入れて周囲を驚かせた。また、日清戦争の折りには、広島の陸軍予備病院で看護婦の取締役として働き、看護婦の地位向上にも貢献した。前例に囚われない発想と、周囲の反対をものともしない行動力こそADHDの長所と言えよう。また、「赤毛のアン」の翻訳者として有名な村岡花子。山梨県の農村に生まれた彼女だが、父親の関係で東洋英和女学校(現東洋英和女学院大学)に給費生として入学し、英語の学びに没頭。後に同校の教師となる。教師を辞めた後は英語児童文学の翻訳家となり、多くの小説などを紹介した。また、ラジオ番組「子どもの時間」に出演し、「ラジオのおばさん」として人気を博した。ドラマの中で、結婚式の最中に翻訳中の文章が気になり、ウエディングドレスのまま図書館に走って行く姿が描かれていた。「思い立ったが吉日」とはADHDの人のためにあるような言葉である(因みに二人ともクリスチャンです)。私が愛して止まない(先日、彼が暗殺された京都伏見の池田屋に行ってきた)坂本龍馬もADHDであったと思われる。彼がいなければ明治維新は起こらなかったのではないかと言われるが、やはりその発想力と行動力は群を抜いている。

 ASD(アスペルガー症候群)の場合はどうだろう。最近では米津玄師が有名である。彼は子どもの頃から友だちがおらず、ずっと「普通の人になりたかった」(音楽誌)そうだ。二十歳の頃、人とのコミュニケーションが取れないことに悩んで病院を受診したところ、「高機能自閉症」と診断された。中学校の文化祭でオリジナル曲を発表するなど、音楽の才能は抜群だったようだが、バンドメンバーと折り合いが悪く、解散してしまう。しかし、「ニコ動」で音楽を配信することに目覚め、さらにボカロと出会ってその才能を開花させる*。ネット時代だからこそ生まれたミュージシャンとも言えるが、かつてのモーツアルトやベートーベンもASD系であったことを鑑みると、ASDの集中力や独特の感覚が音楽家に向いていると言えるだろう。最近何かと話題のアメリカの大富豪イーロン・マスクもテレビ番組で自らをアスペルガー症候群だと公表した。やはりコミュニケーションに問題を抱えていたが、並外れた集中力と発想力で様々な事業を成し遂げてきた。

LD(学習障害)の有名人としてはトム・クルーズが知られている。彼はアルファベットの「b」と「d」の見分けがつかず、読み書きができなかったという。これを克服するまで、母親やアシスタントが台本を読んでそれを聞き、セリフを暗記して映画撮影にのぞんでいた。今年60歳になる彼だが、最新作「トップガン マーヴェリック」においても相変わらずの格好良さである。

 他にも、アップルの創業者スティーブ・ジョブズやマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ。映画監督のスティーブン・スピルバーグ。芸術家だと、レオナルド・ダ・ビンチ,ピカソ,ダリ。俳優のロビン・ウィリアムス。政治家だと、リンカーン,クリントン,ウィンストン・チャーチル。発明家・科学者では、野口英世、エジソン、アインシュタイン、益川敏英,田中耕一など枚挙に暇がない。

 彼らは発達障害の持つポジティブな側面を生かして、自らの才能を開花することができた人々である。もちろん、発達障害の人たちが皆天才というわけではない。しかし、多くの人たちが、ポジティブな側面を生かせず、むしろネガティブな側面によって生き辛さを抱え、自己嫌悪に陥ってしまっている。適応障害やうつ病などの二次障害を発症している人も少なくない。「多様性の時代」と言われて久しいが、実際は異質なものを排除し、均質な社会を保とうとする、「同調圧力」のような雰囲気がこの国を覆っているように感じるのは私だけだろうか。

 発達障害の人たちが輝いて生きるために、本人と周囲の人たちがどうすべきか次号で考えていきたいと思う。

続く

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