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「美しく、強く、しなやかに-イスラエルの女性たち-」 ⑤

女預言者デボラ
(士師記4章~5章)

ラウジー満世

中央聖書神学校教師

サクラ・キリスト伝道所牧師

 デボラは12人の士師の一人でした。彼らが活躍した時代はどのような時代だったのでしょうか。イスラエルの人々が荒れ野を40年間旅をした末にモーセは約束の地を見ながらヨルダン川を渡ることなく生涯を閉じました。民はその後、モーセの後継者となったヨシュアのリーダーシップのもとにヨルダン川を渡り、約束の地、カナンへと入ってそこに定住しました。士師の時代は約束の地に定住し始めて間もない頃でした。

 約束の地を得るために多くの戦いがありました。ヨシュア記に書かれているとおり12部族の土地が割り当てられてもまだイスラエル王国はなく、王はいませんでした。12部族のつながりは緩やかでした。当時は敵に攻撃されるたびに神が士師を選ばれました。士師を中心にいくつかの部族が協力して戦い、勝利を与えられ、しばらく平和な時を過ごすという繰り返しでした。

 ところで、士師は「さばきづかさ」とも訳されています。士師の働きには軍を率いて敵と戦うこともあれば、民の司法官として公平な裁判をすることもありました。デボラ以外の11人の士師は男性でした。イスラエルの家父長制の社会において女性であるデボラが士師として用いられていたのです。彼女は軍隊を直接指揮することはありませんでしたが、「女預言者」とも呼ばれているとおり、神の言葉を聞き、デボラと共に戦いに出て行った軍の指導者バラクにその言葉を伝える働きをしたのです。夫の名前も書かれているとおり、彼女は結婚して家庭生活をしていた女性でした。

 このように男性が大きな責任をもって社会全体をリードしていく時代にも、神はデボラに士師として必要な賜物を与えて用いられました。カナンの王ヤビンとの戦い以前に、デボラは既にさばきづかさとしてなつめやしの木の下で裁きを行っていました。人々は既にさばきづかさとしてのデボラを信頼していました。そしてこの戦いの時には女預言者としてバラクを呼び寄せて軍を率いて戦いに出るよう伝えました。敵の強大な軍事力を前に、バラクはデボラが同行することを条件に承諾しました。直接軍の指揮を執るのはバラクなのに、なぜでしょうか。神がデボラに賜物を与えておられるがゆえに士師として働いていることを理解していたからです。そして強大な敵に対してわずか一万人のイスラエル兵では物理的に劣勢という状況において、まさに神の導きを的確に聞き取るデボラが不可欠だったのです。

 バラクから戦いに同行するように願われたデボラは、まだ始まっていない戦いを見通して、もし自分が同行するならば主は女の手に栄誉を与え、バラクの栄誉にはならない(士師記4:9)と伝えたうえで戦いに出ました。ところで、私たちはこの「女」(士師記4:9)はデボラ自身を指しているのかと考えます。しかし戦いが終わってみれば、敗走した敵軍の将シセラを大胆な方法で殺し、栄誉を受けたのはカイン人ヘベルの妻ヤエルでした。ここでも確かにデボラは神からの特別な賜物を与えられており、士師としての働きに活かされていたことがはっきりと分かります。

 旧約聖書の中でも男性がリーダーとして用いられてきた歴史に突然女預言者デボラが士師に選ばれたことにとても驚き、新鮮な思いがします。現代社会でも私たちは同じように、中心的な働きを神様から託されるのは男性、あるいは素晴らしい資格のある人だと思い込んでいないでしょうか。男性が活躍する社会だから女性は大きな働きに用いられないと決めつけていないでしょうか。あるいは、神の働きをするのは神の民として選ばれ、神に従っている人―旧約聖書の時代ではイスラエル人、今日では真の神を信じる人だけだ、という思いにとらわれていないでしょうか?

 神はすべての人の生涯にご計画をもっていのちを与え、性別によって限定することなく適切な人に賜物を与え、一人一人を主の働きに用いられます。また、ヤエルのように、イスラエル人だけが神の働きをしたとも限らないことを思う時、心で神を探し求め、真の神に仕えようとする人々を神が用いられることに気付き、うれしい驚きも感じます。

 もちろん確かに性別や年齢や育った環境により、適性が異なる傾向はあるのです。そしてそれぞれの適性が用いられ、主の働きを共に担わせていただけます。しかしデボラのように11人の士師と共にたった一人の女性として士師の働きを託され、忠実に仕えた人もいたのです。もしかしたら私たちは「自分は○○だからこのように奉仕する」、「自分は○○だからこのような働きをするわけがない」と、自分で制限をかけてしまうかもしれません。このような思いは女性だけではなく男性も経験するでしょう。それを乗り越えて、神様が私たち一人一人に託そうとしてくださっている働きを見分け、そのために与えられている賜物を疑わずに受け取って主の御心に沿って用い、主の御用のために主の栄光を表す信仰者となりたいですね。

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