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「美しく、強く、しなやかに-イスラエルの女性たち-」 ⑥

ヘブライ人の助産婦
(出エジプト記 1章15節~21節)

ラウジー満世

中央聖書神学校教師

サクラ・キリスト伝道所牧師

 モーセが生まれた頃、イスラエルの人々はエジプトに寄留していました。神の祝福を受けたイスラエルの民(ヘブライ人)はエジプトでも数を増していました。神の祝福は当時の大帝国であったエジプトの王にとってさえ脅威でした。王は何とかヘブライ人の勢いを削ごうとしてひどい強制労働を課しますが効果はありません。そして王は知ってか知らずか、命を与える神の祝福に真っ向から反する手段を取り、ヘブライ人助産婦を利用して男子が生まれたらすぐに殺せと命じるのです。何という恐ろしい時代でしょうか。

 このとき、王の命令を受けた二人の助産婦はシフラとプアでした。旧約聖書に登場する多くの女性たち同様、この二人について詳しい紹介はされていません。ただ彼女たちはエジプト王から直接指示を受けたことだけが伝えられています。命が誕生する場で働く彼女たちにとってこれは何と残酷で受け入れがたい命令だったことでしょうか。しかも命じているのは強大な権力を持つ王であり、この命令に逆らうことは死を意味することは明らかでした。二人の立場を思うと私たちも心配になります。

 不条理な命令を受けた二人はどうしたでしょうか。二人はエジプト王の命令には従わずに、当然のように生まれた男子を生かしておいたのです。ドラマであれば二人の苦悩を劇的に描くところでしょうが、聖書は淡々と事実を伝えます。二人は理不尽な王に対して勇敢に立ち上がるという気負いを持つわけでもなく、ヘブライ人に同情して忠誠を尽くすというわけでもありません。ただただ「神を畏れていたので」(出エジプト記1:17, 21)男子を生かしておいたのです。神を畏れ、敬虔な信仰を持って生きることの驚くべき強さがここにありました。深く神を信じ、愛する人にとって、畏れるべき相手は世界帝国の王ではなく、世の権力者ではなく、真の神お一人なのです。しかも確固たる信仰を持っていた二人は王の命令を無視し、いつもの仕事をするのと同じように、命を与える神の祝福の業に仕えていくのです。

 二人が王の命令を無視していることに気付いた王は二人を咎めます。しかし二人は驚きも隠れもしません。「彼女たち(ヘブライ人の女)は丈夫で、助産婦が行く前に産んでしまうのです。」と平然と答えています。実際のところはどうだったのか、と気になります。しかし聖書によると、神を畏れる二人の女性は動揺することもなく、ただこの知恵ある言葉によってエジプト王の陰謀に加担することなく、その謀略を砕いてしまいました。まさに「主を畏れることは知恵の初め。」(箴言1:7)です。

 神は二人の信仰をしっかり見ておられました。二人が神を畏れていたから、神は二人にも子宝を恵まれた(出エジプト記1:21)のです。世の権力や暴力を恐れず、それらに屈することなく、ただ神様への固い信仰に立って、淡々となすべきことを行う人々に対して、神は恵みをもって応えてくれます。世間では地位や名誉や権力を持つ人の名が記され、もてはやされます。しかし神は虐げられた民の中で淡々と主に仕える人の名を覚えて下さるのです。この出来事を伝える箇所でエジプト王の名は書かれていないのに、二人の助産師の名はしっかりと刻まれているように。

 神を畏れて神に従っていくために必要なものは地位や権力や功績ではありません。生まれた場所や性別や民族でもないのです。ただ神を愛する心と、神を信頼する信仰と、自然に主を賛美して仕える献身なのです。

 6回にわたって旧約聖書に登場するイスラエルの女性たちの信仰を見てきました。聖書を読む誰もが良く知っている女性たちも神に用いられています。しかし、何度読んでも存在すら記憶に残らない女性たちもいます。それらすべての人々を通して神の御業が進められてきました。社会の片隅でつつましく信仰を守る人々も神はちゃんと知ってくださっているのです。イスラエル人ではない人々であっても神を信じる人に目を留めて下さるのです。あらゆる時代の人々と神様は共に歩んでくださるのです。

 今、この時代に私たちは生かされています。クリスチャン人口の少ない社会で神を信じています。信仰のゆえに様々な条件の下で制約を受けることが社会生活では起こり得ます。しかし、そのような自分にとって不自由であり、不利だと考える状況も神様が私たち一人一人に与えて下さった恵みの場所なのです。旧約聖書の中の多くのイスラエル人女性のように、私たちもそれぞれに自然体で、神様に覚えていただいている、愛されている子どもとして、神を見上げ、聖書の言葉に導かれ、祈りを通して聖霊に導かれ、愛する兄弟姉妹と共に励まし合いながら主を喜んで歩んでいきましょう。そのような私たちを通して神が栄光をあらわしてくださることを感謝しつつ。

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