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「日本語になった聖書の言葉」⑥


第6回

「目から鱗」

堀川 寛 三滝グリーンチャペル牧師

 今まで分からなかったことが急に理解できるようになったとき、「目から鱗」、あるいは「目から鱗が落ちた」と思わず言ってしまいますが、この言葉が聖書に由来していることを知っている人は多くありません。実は私の教会でこの話をしたとき、「それは知りませんでした。目から鱗です!」と、若干間違った使い方をしつつも、はじめて聞いたリアクションをした人がおられました。もちろんご存じの方もおられることでしょうが、今日はこの言葉のルーツについてお話ししましょう。

 「目から鱗が落ちる」体験をした人は、サウロ(後のパウロ)というユダヤ人青年です。彼は、ファリサイ派というユダヤの決まり(律法)を厳格に守ることを旨とするグループに所属していた教師で、未来を嘱望されていたエリートでした。彼は自分たちの信じていることに絶対的な自信を持っていたし、自分たちとは異なる教えに対しては異常なまでの敵愾心を燃やすタイプの人でした。そこに現れたのが、ナザレの大工であったイエスをメシア(救い主)だと主張するグループ(ナザレ派)でした。彼らは十字架で死んだはずのイエスは死後三日目に復活し、今も生きて働いていると主張して、破竹の勢いで仲間を増やしていきました。サウロは、彼らの教えは聖書(旧約聖書)に反するものであり、彼らを野放しにすることによって主なる神の怒りを買い、国家存亡の危機を招きかねないと信じて疑いませんでした。そこで、ナザレ派が潜伏しているとの情報が寄せられた、エルサレムから200㎞離れたダマスコという町まで、彼らを捕らえるために向かったのです。


 ところが、ダマスコの城壁が視界に入りかけたそのとき、突然天からまばゆいばかりの光が差し込み、サウロがその場に倒れ込むと、「サウロ、サウロ、なぜ、わたしを迫害するのか」と呼びかける声が聞こえたのです。サウロが、「主よ、あなたはどなたですか」と言うと、「わたしは、あなたが迫害しているイエスである」と返ってきました。何と、死んだはずのイエスは生きていたのです。そして、自分は偽りの教えを信じている危険分子を抹殺しているつもりだったが、実はイエス本人を迫害していたというのです。サウロにとってはまさしく青天の霹靂でした。

 何とか立ち上がり、周囲を見渡そうとしたみたサウロでしたが、何も見えません。目が見えなくなっていたのです。同行者に手を引かれ、哀れな姿でダマスコの町に入ったサウロは三日間、食べも飲みもせず祈り続けました。見えなくなったショックよりも、イエスは生きていたという事実がサウロを打ちのめしたのです。彼の信念は粉々に砕かれ、イエスを土台とする教えが彼の頭の中で再構築されていったことと思われます。

 サウロが悶々とした日々を送っていた一方で、イエスはダマスコにいたアナニアという弟子に声をかけ、サウロの所へ行って手を置いて祈ってやれ、と命じられます。アナニアは、彼は自分たちを捕らえるために大祭司のお墨付きまで手にしてこの町まで来たのだから、そんな男のために祈るなんてとんでもない、と拒みます。当然の反応です。しかしイエスは、「行け。あの者は、異邦人や王たち、またイスラエルの子らにわたしの名を伝えるために、わたしが選んだ器である。」と言われます。わざわざアナニアを遣わされたのは、その後のダマスコの信徒たちとのつながりを考えてのことでしょう。

 アナニアがイエス様の指示された家に行くと、それとおぼしき青年が憔悴しきって座っていました。アナニアはイエスに命じられてここに来たことを説明すると、サウロの上に手を置き祈りました。するとどうでしょう。「たちまち目からうろこのようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった」ではありませんか!この場面こそが、「目から鱗」の起源となったエピソードです。厳密には、「鱗」が落ちたのではなく、「うろこのようなもの」が落ちた、と記されています。サウロは数日後には、あちらこちらで「イエスは神の子である」と語り伝え始めたのでした。

 私たちはしばしば自分の信念に固執し、大切なものが見えなくなってしまうことがあります。心の目を開けていただくために肉の目を閉じ、祈ろうではありませんか。

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執筆者紹介

堀川 寛 
三滝グリーンチャペル牧師
中央聖書神学校 学監

広島県スクールカウンセラー
臨床心理士
公認心理師
不登校児のためのフリースクール主催(1997~2000年)
ひきこもり状態にある方々の支援(2008年~)
パソコン聖書ソフト「J-ばいぶる」の開発

妻と息子二人と犬一匹(チワワ)
趣味:ゴルフ・スキー・チェロ・落語鑑賞など

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